死後事務委任契約

 自分に相続人が全くいないか、いても遠距離や疎遠になっていることから、自分が亡くなった後の死後の事務を他人に依頼する方法に死後事務委任契約、負担付贈与、負担付遺贈、信託制度などの利用が考えられます。

 もし、遺言を残していたとしても実際に遺言に基づく手続きがなされるまでは時間がかかります。それというのも、人が亡くなった場合には通夜や葬儀などが慌ただしく行われ、その他の手続きは後回しになるからです。

 また、遺言によって死後の事務など記載しても法的な効力はありません。遺言に記載して法的な効力を持つのは遺産の分け方など法律によって規定されている事項です。ですから、葬儀や埋葬方法について記載しても法的な効力がありません。

 そして、死後の通夜や葬儀など行ってくれる方がいない方の場合、死後の事務に関する不安というのもあります。具体的には先述の死後事務委任契約によって生前の任意後見契約や遺言、相続手続きなどで対応できない事務について委任する契約です。

なお、死後事務委任契約の受任者は任意後見を受任していない限り、死亡届の提出者とはなれませが、任意後見受任者であれば、2019年6月施行の戸籍法改正により死亡届の提出者となることができるようになりました。

死後事務委任契約は、利用者が自身の死後に望む事務処理について、法的根拠が明確なものについては遺言で定め、遺言でカバーできない死後の事務処理を行う手続きといえます。

 以下のような手続きです。

1 医療費の支払いに関する事務

2 家賃、地代、管理費等の支払に関する事務

3 介護施設等の利用料の支払いや入居一時金等の受領に関する事務

4 通夜、告別式、火葬、納骨、埋葬に関する事務

5 菩提寺の選定、墓石建立に関する事務

6 永代供養に関する事務

7 賃借建物明渡しに関する事務

8 行政官庁等への諸届け

身寄りのない方は、自分が亡くなった後の病院代の清算や役所への手続き、葬儀などの手続きを行ってくれる者がいないため、生前に他の第三者にお願いしておきたいという場合があります。任意代理や任意後見の場合はといいますと、ご本人が亡くなると終了するのが原則です。

死後の債務となる入院費や施設利用料の支払い、病室や施設の明渡しなどが、受任者によって行われることで依頼するご本人にとっても安心につながることになります。

墓地への納骨は特に決められた期日はありませんが、忌明け法要、一周忌や三回忌などに合わせて行うのが一般的です。墓地がない場合は、ご遺骨は自宅に安置したり霊園の納骨堂や永代供養墓に納めたりします。

納骨の際には埋葬許可証が必要であり、役所で交付された火葬許可証を火葬場に提出し、火葬が終わった際に受け取るのが一般的です。

細かい話となりますが、死後の事務委任契約は民法653条1号が委任者の死亡を委任契約の終了事由としていることから、委任契約が有効か否かが問題となります。

これに関して、最高裁平成4年9月22日小判によると、本人が死後の事務を委任することは可能であり、本人の死後であっても委任契約に基づき、受任者によって本人の依頼事項が実現されることになります。

病院、施設、アパート、借家など

病院や施設の利用権は、ご本人の死亡によって終了するとされているのが一般的ですので死亡による賃借権の承継とはならないと考えられます。

 アパートや借家については、賃借権は相続の対象となります。賃借人が亡くなった後、賃借権自体と家財は相続人に相続されるため、相続人の所在が分からない場合、残置物の処理や賃貸借契約の解除が困難となることから、賃貸人が部屋を貸してくれないというケースがあります。賃借権の解除については本人の死亡による賃借権の消滅を契約書に特約など規定しておいて対応することが考えられます。

 また、単身の賃借人の方が亡くなった後のアパート内の残置物の処理も問題です。

 そこで、高齢者の居住の安定確保に関する法律による、終身建物賃貸借契約による契約条項が参考となります。

この死後事務委任契約については相続放棄との関連で気を付けるべき点もあります。民法921条1号では、相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき単純承認とされ、相続人が被相続人の権利義務を承継するとの規定があるため、死後事務委任契約の受任者も支出や処分に注意する必要があります。