成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律

 民法及び家事事件手続法の改正が行われ,平成28年10月13日に施行されています。

これによりますと,成年後見人は,家庭裁判所の審判を得て成年被後見人宛ての郵便物の転送を受けることができるようになりました。また,成年後見人が行う死後事務の内容及びその手続が明確にされています。

なお,この改正は成年後見のみを対象としていますので,任意後見や保佐,補助,未成年後見には適用されません。

平成28年の改正により,成年後見人は,成年被後見人宛ての郵便物について転送嘱託によって受け取ることができ,また,その郵便物を開封することもできるようになりました。

なお,破産管財人には,もともと破産法によって破産者の郵便物などを転送してもらったり,管財人が開封したりできる規定がありました。

成年後見人は,郵便物を開封して見ることができますが,成年後見人の事務に関しないものは速やかに成年被後見人に交付しなければなりません。また,成年被後見人は,成年後見人が受け取った郵便物について閲覧を請求することができます。

郵便物の管理の手続きとしては,成年後見人が家庭裁判所に対して転送嘱託の審判開始の申立てを行い,その審判が確定すれば,郵便物が成年後見人に配達されるようになります。家庭裁判所は,この審判があった後,事情に変更を生じた場合,嘱託を取り消し,又は変更することができます。

転送期間は,家庭裁判所が審判によって決めますが,6カ月を超えることができないとされています。もし,成年後見人の任務が終了したときは,嘱託を取り消さなければなりません。

成年被後見人が亡くなった後,成年後見人は,必要があるときは,成年被後見人の相続人の意思に反することが明白でない限り,相続人が相続財産を管理するまで相続財産に属する特定の財産の保存に要する行為,相続財産に属する債務の弁済(弁済期が到来した医療費や公共料金等の支払い),火葬又は埋葬に関する契約の締結といった死後事務をすることができるようになりました。ただし,火葬又は埋葬に関する契約をしたりする場合,家庭裁判所の許可が必要となり,相続財産の保存でも家庭裁判所の許可が必要となるものがあります。

もし、亡くなった成年被後見人等に負債があり、相続放棄が必要なケースで何かしらの支払が残っていたとしても本人の相続財産から支払うとなると単純承認となってしまい、相続放棄できなくなる可能性もあるため、すぐに支払わずよく検討をしておく必要があります。

家庭裁判所から許可を得たとして,葬儀については,宗派や規模など様々な葬儀形態があって,施行方法や費用負担等をめぐって相続人とのトラブルが発生する可能性もあるため,成年後見人が施行する権限まではないとされています。

任意後見と4つのオプション

 判断能力が衰えた時に備えて任意後見人にサポートをしてもらうよう元気なうちに契約をしておきます。

 認知症などによって判断能力が衰えたときに家庭裁判所から任意後見監督人が選任されて,任意後見人の支援が始まります。

 財産管理や,よりよい生活を送れるよう任意後見人にサポートしてもらいます。任意後見人は,自分で選ぶことができ,信頼のできる親族や友人,専門家などに頼むことができますし,一人が財産管理,もう一人が身上監護をするというように複数の後見人に支援してもらうというのも可能です。

なお,任意後見人には取消権,同意権がありません。

そして,任意後見契約に付加したり,単独でも利用できる契約があります。任意後見契約の予備的に以下の見守り契約,任意代理契約,遺言や死後事務委任契約とセットにすることでより高齢者支援に役立ちます。

 オプション①見守り契約

 元気なうちから,定期的な電話連絡をしたり,訪問などで安否確認をしたり,心身の健康に問題がないかといった心身の状態を確認します。任意後見は判断能力が低下してから効力が生じますので,それまでの間は,見守り契約によって定期的にやり取りをすることで,本人の生活状況や判断能力,健康状態などを把握する必要があります。

 オプション②任意代理契約

 判断能力はまだ十分にあるが,病気や高齢になったことで身体が思うように動かなくなった際などに財産管理や身上監護をお願いしたいという任意代理契約を締結します。民法上の委任契約になります。任意後見契約が始まるまでの間,ご本人を支援する契約です。

 オプション③遺言書作成

 公証役場に原本が保管される公正証書遺言と自分で書いて保管しておく自筆証書遺言などがあります。公正証書遺言と任意後見契約をセットで作成するというケースもあります。

 オプション④死後の事務委任契約

 自分が亡くなった後の事務処理を委任しておく契約です。亡くなった後も入院費用の精算や葬儀を行ったり家財道具や不用品の処分をお願いしたりといった事務を行います。ご本人の死後,相続人に引き継ぎができない場合にもご遺体の引き取りや葬儀,死亡届提出といった事務処理を委任します。

後見制度支援預金

 成年後見制度では,後見人として管理していた被後見人の預金着服などが問題となっていますが,後見人の不正行為を防ぐための制度として後見制度支援信託があります。
 この制度は,管理する財産を信託銀行に信託して,その財産の払い戻しや解約に家庭裁判所の指示書が必要となり,後見人の不正を防ぐ目的で利用されます。ただし,後見制度支援信託を利用するには信託する金額が一定以上でなければならない,といった条件があり,簡易に利用しにくいという難点があります。
 そこで,静岡県の信用金庫と家庭裁判所が協議をして後見支援預金という取り組みを始めました。後見支援預金では,利用しやすいように1円から預金できるとしており,払い戻しや解約の際には家庭裁判所の指示書が必要であり,これにより不正を防ぐというものです。
 これは、日常的な支払をするのに必要十分な金銭とは別で、通常は使用しない金銭を預金として別で管理するというものです。成年後見や未成年後見で利用されます。
 後見制度支援預金は、取扱いができる信用組合が限られていますが、通常の普通預金より優遇された金利が適用されることもあるようです。