相続不動産の調査

相続登記をする際に,まずは依頼者から不動産の聞き取りを行います。この場合,依頼者の中には正確に覚えている方もいますし,そうでない場合もあります。その場合は資料によって相続財産を調査していく作業となります。

 資料としては固定資産税納税通知書や保有している登記済証,売買契約書などの紙媒体のものを調べていきますが,手続き後に調査漏れの不動産が出てくると大変です。

 特に,固定資産税が非課税である墓地や公衆用道路,山林などが後から出てくることがあります。

 そこで,委任状によって,固定資産税課税台帳(名寄帳)を閲覧又は謄写します。ただし,名寄帳ではその市町村にある不動産は記載されていますが,他の市町村に不動産があると調査漏れにつながりますので注意が必要です。また、名寄帳によっても非課税の不動産は記載されていないことがあります。

 次に,相続財産を確定する調査の段階で,登記済証や固定資産税納税通知書に載っている不動産の登記事項証明書を取得して,そこから原因及びその日付を見て,分筆がされていれば公図も見ながら調べていきます。そして,共同担保目録を見て抵当権などの担保物件が設定されている場合,その該当不動産についても確認をしておきます。

 建物については未登記のものもあります。未登記の建物ですと、固定資産評価証明書を見ても亡父のものかもしれませんし、亡祖父の建物であったりするケースがあり、役所の資産税課でも確認をしておくこともあります。

 未登記の建物は、家屋納税義務者変更申告書とともに遺産分割協議書、印鑑証明書のコピーも付けて役所の資産税課へ提出し、納税義務者を変更するという手続きもあります。

町内会などの権利能力なき社団の登記

 もし,町内会など権利能力なき社団の代表者個人名義で登記された不動産がありますと,その代表者が死亡した場合,相続を原因とするのではなく,委任の終了を原因として新代表者へ所有権移転登記をします。

 (1)権利能力なき社団について
 団体とは法人に限られず,法人格(権利能力)がなくとも,社団の実体を有する団体は存在します。例えば,町内会や自治会,マンションの管理組合など企業のような法人格はないのですが,法人と同様の組織で活動している団体です。
 権利能力なき社団としての要件としては次の通りです。団体としての組織を備え,多数決の原則が行われていること,構成員の変更にも関わらず団体そのものが存続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理その他,団体としての主要な点が確定していることといったものが最高裁によって示されています。
 権利能力なき社団では,権利能力がないため,社団そのものに財産が帰属するといえないため,その財産は構成員全員に総有的に帰属することになります。
 総有というのは共有とは違ってきます。これも法律の細かい話になってきますが,共有というのは一つの物を複数の人が所有していて,それぞれ各自が単独で処分することができます。
 これに対して,総有となると全員で一つの物を所有していますが,それぞれの人は持分すらなく,収益権能しかないということになります。
 例えば,町内会で集会所を総有していますと,メンバーの各自が単独で集会所を処分することはできません。ですが,集会所をそれぞれ利用することはできます。
 では,登記上はどうなるのでしょうか。企業といった法人が所有する不動産については法人名義で登記をすることができます。権利能力なき社団については,原則として,不動産を社団名義で登記することはできません。
 登記官としては,形式的な審査権しかないため,登記を申請した者が権利能力なき社団としての実質を有しているかどうかは審査ができません。
 そのため,権利能力なき社団名義での登記を認めるとなると,申請通りに受理しなければならないことになり,無効な登記を発生してしまうことにも繋がります。従って,権利能力なき社団名義での登記は認められず,代表者の肩書付きでの代表者個人名義の登記も認められません。
実際には,代表者の個人名義で登記が行われています。これは,代表者個人が,全てのメンバーからの受託者として個人名義で登記をしているということになります。
 なお,権利能力なき社団は,抵当権などの債務者としては一登記事項として,登記をすることはできます。
 もし,代表者が亡くなった場合はというと,新代表者に対して委任の終了を原因とする所有権移転登記をします。ところで,死亡は委任契約の終了事由です。
 例えば,町内会の集会所を代表者のAさん名義で登記していても,権利能力なき社団である町内会が所有しているため,総有をしていたAさんの相続の対象とはなりません。もし,Aさん名義で登記されていた不動産だからと間違って相続を原因として登記をしてしまった場合,その登記を抹消する必要があります。
 そして,新代表者としてBさんが決まれば,そのBさんとAさんの相続人全員で共同して委任の終了を原因とする所有権移転登記を申請します。この場合の登記手続きは信託的構成と委任的構成の争いがあります。
 では,自治会や町内会等の名義では登記できないのかというと,自治会、町内会等も地縁による団体として,地方自治法による市町村長の認可を得れば法人格を得て,登記名義人として所有権移転登記をすることができます。
 婦人会やスポーツ団体など認可を得られない団体もあります。
 

住所変更登記

登記簿上に権利者として登記されている登記名義人について,引っ越しなどにより住所が移転したり,結婚により氏名が変わったり,もしくは住所の記載が間違っている場合には,それを現在の正しい情報に登記簿上記録しなければなりません。
この場合に手続上,行われるのが,登記名義人の表示変更,更生登記です。この登記は個人のみでなく,会社等の法人についても商号や本店など変更したりすれば手続きとして行う登記です。

住所を移転した際の添付書面として、住所移転を証する書面が必要となりますが、一般的には住民票の写しがあります。他にも戸籍の附票の写しも使用されます。
もし、原本が必要であれば、原本還付の手続きをしますが、これは、住民票の写しのコピーに「原本の写しに相違ありません」と記載して、代理人として署名または記名捺印をします。

申請書には以下のように記載します。

(1)住所が複数回移転した場合
例えば、住所がA市と登記事項証明書に記録されていて、そこから昭和63年2月1日にB市へ住所移転して、平成20年2月1日にC市へ住所を移転したというように、複数回移転した場合にも1件の申請で手続が出来ます。
申請書には、現在の住所と変更原因を記載するようになります。

登記の目的 所有権登記名義人住所変更
原因 平成20年2月1日住所移転
変更後の事項 住所 C市〇〇町〇〇

(2)共有者の住所が移転した場合
不動産を2人で共有している場合に、共有者の1人が住所を移転した場合、どういった申請を行うかというと、申請書には住所移転した人だけが申請人となります。

登記の目的 所有権登記名義人住所変更
原因 平成20年2月1日住所移転
変更後の事項 共有者 山田太の住所 C市〇〇町〇〇

このように記載します。