もし,町内会など権利能力なき社団の代表者個人名義で登記された不動産がありますと,その代表者が死亡した場合,相続を原因とするのではなく,委任の終了を原因として新代表者へ所有権移転登記をします。
(1)権利能力なき社団について
団体とは法人に限られず,法人格(権利能力)がなくとも,社団の実体を有する団体は存在します。例えば,町内会や自治会,マンションの管理組合など企業のような法人格はないのですが,法人と同様の組織で活動している団体です。
権利能力なき社団としての要件としては次の通りです。団体としての組織を備え,多数決の原則が行われていること,構成員の変更にも関わらず団体そのものが存続し,その組織において代表の方法,総会の運営,財産の管理その他,団体としての主要な点が確定していることといったものが最高裁によって示されています。
権利能力なき社団では,権利能力がないため,社団そのものに財産が帰属するといえないため,その財産は構成員全員に総有的に帰属することになります。
総有というのは共有とは違ってきます。これも法律の細かい話になってきますが,共有というのは一つの物を複数の人が所有していて,それぞれ各自が単独で処分することができます。
これに対して,総有となると全員で一つの物を所有していますが,それぞれの人は持分すらなく,収益権能しかないということになります。
例えば,町内会で集会所を総有していますと,メンバーの各自が単独で集会所を処分することはできません。ですが,集会所をそれぞれ利用することはできます。
では,登記上はどうなるのでしょうか。企業といった法人が所有する不動産については法人名義で登記をすることができます。権利能力なき社団については,原則として,不動産を社団名義で登記することはできません。
登記官としては,形式的な審査権しかないため,登記を申請した者が権利能力なき社団としての実質を有しているかどうかは審査ができません。
そのため,権利能力なき社団名義での登記を認めるとなると,申請通りに受理しなければならないことになり,無効な登記を発生してしまうことにも繋がります。従って,権利能力なき社団名義での登記は認められず,代表者の肩書付きでの代表者個人名義の登記も認められません。
実際には,代表者の個人名義で登記が行われています。これは,代表者個人が,全てのメンバーからの受託者として個人名義で登記をしているということになります。
なお,権利能力なき社団は,抵当権などの債務者としては一登記事項として,登記をすることはできます。
もし,代表者が亡くなった場合はというと,新代表者に対して委任の終了を原因とする所有権移転登記をします。ところで,死亡は委任契約の終了事由です。
例えば,町内会の集会所を代表者のAさん名義で登記していても,権利能力なき社団である町内会が所有しているため,総有をしていたAさんの相続の対象とはなりません。もし,Aさん名義で登記されていた不動産だからと間違って相続を原因として登記をしてしまった場合,その登記を抹消する必要があります。
そして,新代表者としてBさんが決まれば,そのBさんとAさんの相続人全員で共同して委任の終了を原因とする所有権移転登記を申請します。この場合の登記手続きは信託的構成と委任的構成の争いがあります。
では,自治会や町内会等の名義では登記できないのかというと,自治会、町内会等も地縁による団体として,地方自治法による市町村長の認可を得れば法人格を得て,登記名義人として所有権移転登記をすることができます。
婦人会やスポーツ団体など認可を得られない団体もあります。