死因贈与の仮登記

 死因贈与とは、死亡を原因として贈与する当事者間による契約です。贈与する側の死亡を原因として、財産を贈与するというものです。

遺言と死因贈与の共通点は、自分の財産を無償で与えるもので贈与者の死亡によって効力が生じるという点ですが、死亡を効力発生要件とする共通点もあり、死因贈与は民法554条によって遺贈に関する規定が準用されています。なお、死因贈与で財産を承継した人も遺贈で財産を承継した人も相続税の対象になる点は共通しています。

 反対に遺言との違いは、遺言は単独行為であるため、相続や遺贈を受ける相手に必ずしも知らせる必要はないのですが、死因贈与は贈与者と受贈者との双方の明確な合意によって行われる契約という点で違いがあります。

 死因贈与については書面によって契約書を交わしても、口頭で約束をしたとしても契約が成立しますが、贈与契約は書面によって交わされた場合、撤回できないとされており、死因贈与も書面による場合は撤回できないのでしょうか。

 民法550条では書面によらない贈与は、履行前について各当事者が解除をすることができるとあり、反対に書面による場合は撤回できませんが、死因贈与も同じく書面による場合は撤回できないようにも思えます。

 しかし、遺言の場合は民法1022条により、いつでも撤回できるとあって遺贈と同趣旨の贈与者の最終意思を尊重するという考えからいうと、死因贈与も撤回できるのが相当と思われます。

 この点に関して、最高裁は、死因贈与については遺言の取消に関する民法1022条が方式に関する部分を除いて準用されると解すべきとし、死因贈与は撤回できると判断されました。

 ただし、負担付死因贈与で受贈者が負担の履行をしていた場合は撤回ができないとされたケースがありますので、全ての場合で死因贈与が撤回できるわけではないようです(最高裁昭和57年4月30日第二小法廷判決)。

 例えば、受贈者が長年介護をしてきて(負担を履行して)後から撤回されるとなると不合理だからです。

 そして、この死因贈与は、贈与者の生前に仮登記をすることができ、生前から権利を保全することができます。

 死因贈与の仮登記は原則として、受贈者と死因贈与者との共同申請となりますが、仮登記義務者の承諾書があれば仮登記権利者からの単独申請によって登記できます。

 この場合、承諾書に押印された実印の印鑑証明書が必要で承諾書及び承諾書に添付する印鑑証明書は原本還付されません。また、承諾書に添付する印鑑証明書は期間制限を定めた不動産登記令16条または18条に該当しないため、作成後3カ月以内のものに限りません。

 なお、共同申請の場合は、所有権登記名義人の作成後3カ月以内の印鑑証明書が必要です(令16条3項、18条3項)。

 ただし、公正証書で作成された死因贈与契約書に「仮登記義務者が所有権移転の仮登記を申請することを承諾している旨の記載」がありますと、登記義務者の印鑑証明書を添付しなくとも仮登記権利者は単独で仮登記の申請をすることができます。